Woodturning

ウッドターニング(Woodturning)は誰にでもできる木工ジャンルのひとつです。サラダボウルやパン皿など良く使うモノづくりからはじめるのが一般的です。細長くつながった木屑がシュルシュルと音を立てて削れる不思議な感覚を味わえます。回転させた材料に鋭い刃先を当てて削るのは最初はチョット怖いイメージもあるかもしれません。少し奥が深いウッドターニングなので、基礎を学んだあとは焦らずじっくり上達を目指しましょう。早めに正しく基礎を学んでしまえば快適なウッドターニングライフがおくれるでしょう。ウッドターニングをする人をウッドターナー(Woodturner)といいます。

6070s

ベンチトップタイプ(卓上型)の木工旋盤で回転させた材料を削るウッドターニングの様子です。シュルシュルとスライスするように削るのがコツです。刃先は鋭く良く切れる状態を保つことが大切なのでマメに砥いで使います。回転体は中心付近と外周付近では周速度が違いますので渦巻状に削らないように削り進むスピードを工夫してみましょう。

シュルシュル、サクサクという削り方(スライシング)をイメージして使うことが正しいガウジなどのカッティングタイプの刃物が上手く使えるようになればデコボコがほとんど無い美しい切削面に加工できるようになります。ボリボリと引っ掻くような削り方(スクレーピング)になりがちなスクレーパータイプの刃物では綺麗な切削面にはなりにくいです。

刃先の砥いだ面のことを「ベベル」(bevel )といい、カットしたばかりの新しく出来た表面にベベルを沿わせながら削ることを「ベベルラビング」(bevel rubbing)と言います。なるべく積極的にカッティングタイプの刃物を使ってベベルラビングしながらスライスするように削れるようになることが成功への近道になるでしょう。

ベンチトップタイプの木工旋盤なら置く場所にもそんなに困らないし価格もリーズナブルです。作業スペース(工房)は広い方が良いですが、日曜大工(電動工具を使うようなDIY)がやれる屋内のスペースがあれば始められると思います。欧米では趣味のレベルでも2Carガレージ(2台分の車庫)を丸ごとウッドターニング工房にする例も少なくありませんが、日本国内では様々な工夫で3畳・4畳半・6畳程度の広さで楽しんでいる方が多いようです。0684s

板状の材料からお皿をつくるのをイメージすれば理解しやすいと思いますが、その作業のことをフェイスワークといい、木の器をつくることをボウルターニングといいます。サラダボウルのような器をつくる時、たいていの場合はフェイスワークの木取りで行われることが多い傾向です。複数の方法がありますが一般的にはボウルガウジという刃物がメインツールになります。ウッドターニングのことを熟知した刃物メーカーが推奨するオーソドックスな刃先の形と角度をもつボウルガウジが用意できれば良いでしょう。そして最初は刃先の形状を崩さずにキープすることをこころがけたほうが無難ですが、ボウルターニングの理解が進むにつれて必要に応じて自分なりに使いやすい角度や形状にしても良いでしょう。写真はベベルを3段にシャープニング(砥ぎ)してある特種な例のボウルガウジですが、刃先も作品の1つと考えて丁寧に砥いで美しく仕上げましょう。ボウルガウジの他にリセスやテノン(チャックで固定する部分)の加工に適したスクレーパー類、強い負荷がかかりにくいパーティングツールなど最低3本程度のツールがあればシンプルなボウルターニングならば十分に楽めます。主なウッドターニングツールのメーカーは欧米にあり、特に英国(シェフィールド)には有名な老舗の製造メーカーが複数あります。

角材から丸棒をつくるのをイメージすれば理解しやすいと思いますが、主に家具の脚のようなものづくりになるそれらの作業のことをセンターワークといい、スピンドルターニングとも呼ばれます。代表的な刃物にスピンドルガウジがあります。他にはラフィングガウジやスキューチゼル、パーティングツールが必要になります。加工部分の形状によりフェイスワークに比べセンターワークの方が刃物の本数(種類)が必要になることが多い傾向です。木目と回転軸の方向が同一なので条件次第ではかなり良い切削面を削り出すことも可能で、場合によってはサンディングが不要になることもあります。しかし、そこまでの高いスキルを身につけるには多くの練習が必要になります。また、細いほど、長いほど、大縄跳びのように材料の真ん中付近が膨らんで回転する現象が起こるので丸棒の加工は想像より難しいかもしれません。ブレを軽減させるテクニックやデバイス(道具)があります。フェイスワークとセンターワークを組み合わせることによってスツール(椅子)などをつくることが可能になるでしょう。センターワークは棒状の加工だけに限らず木口(こぐち)から掘りこむ加工(エンドグレインホローイング)ができるようになればコップや茶筒などにもチャレンジできるようになります。

1273s

奥深いウッドターニングを楽しむには刃物のシャープニングスキルを身につけることが必須になります。成功への近道は刃先を崩さずに形状をキープしながら正しいシャープニング(砥ぎ)が繰り返しできるようになることです。一般的にウッドターニングツールを砥ぐには乾式の卓上グラインダー(砥石)を使います。最優先は安全面ですが、刃先の発熱には十分に気を使いながら刃先を高熱にしてダメージ(ヤキナマシ)を与えないようにする注意も必要です。発熱が気になる場合は湿式(水を併用する)のグラインダーもあります。形状を崩さないようにするにはシャープニングジグ(治具)の併用がお勧めです。シャープニングジグを使わずにフリーハンドでガウジなどを砥ぐプロフェッショナルウッドターナーもいますが、非常にレベルの高いスキルが必要になります。

木を削っているあいだは夢中になってしまいがちで、良く切れる刃物をキープするのを心がけていても少しづつゆっくり切れなくなると「砥ぐタイミング」を判断しにくくなります。削れない、、、当て方悪い?、、、など悩ましい雰囲気になってきた時は、刃物を砥いでみると解消されることがとても多いです。砥いだあとには「あれ?こんなに良く切れるんだったっけ?」となるかもしれません。ウッドターニングを快適に楽しむためには、刃物を砥げる環境が木工旋盤のすぐそばにあることです。砥ぐ→削るの繰り返しになるので砥ぐ環境を整えることは必須です。ほとんどがハイス鋼(ハイスピードスチール)で出来ているウッドターニングツールですが、ハイス鋼を砥ぐことが可能な砥石、高温になりにくいスローな回転数のグラインダー、刃先の形状を崩しにくくサポートしてくれるジグを準備して、まず先にノーマルなウッドターニングを理解してみましょう。オリジナリティなやり方へ進むのはその後でも遅くないでしょう。

0533s

板状に製材した材料が入手しやすいこともありフェイスワークによるボウルターニングを楽しんでいるウッドターナーが圧倒的に多い傾向です。ただ、フェイスワークでは木目と回転軸の方向が違うので表面が荒れやすい部分(逆目)が2ヶ所に出来てしまいます。最初から刃物だけで簡単に美しい切削面にできないことが多く、多かれ少なかれサンドペーパーのお世話になることになります。しかし、荒いサンドペーパーを沢山使ってしまうと木の柔らかい部分(夏目)がへこんでしまい最終的に表面がデコボコになってしまいます。対策としてはサンドペーパーの使用を極力少なくすることになりますが、常に良く切れる刃先をキープし可能な限り「刃物で仕上げる」ことを目指すことを目標にしたいものです。

興味の持ち方に差はあれどウッドターニングを理解する上で身の回りのものづくりから始めるのが良いでしょう。実際に使ってみることもできるそれらは自らを評価できるものにもなります。自分で作ったサラダボウルやパン皿を実際に使ってみるのは最高です。多くのウッドターナーは樹種も豊富で表情が豊かな広葉樹を選ぶ傾向が強いですが、どんな材料であれそれぞれの難しさを感じながら広葉樹でも針葉樹でも好きな材料や入手しやすい材料を選び、まずはボウルターニングをやってみましょう。

出来上がったらフィニッシングです。食用として小瓶で販売されている乾性油(クルミ油、アマニ油、エゴマ油など)を表面に薄く塗ってナチュラルなオイルフィニッシュ仕上げにしても良いでしょう。(オイルフィニッシュは基本的に広葉樹に行うフィニッシング方法です)さらにビーズワックス(蜜蝋)系のワックス(塗りやすくペースト状になったタイプ)を塗ると手触りも優しくなります。オイルフィニッシュには強い防水性は無く用途は限られますし(液体を入れるのはお勧めできない)お手入れしながら使わないといけないものですが、木目のコントラストがハッキリとあらわれ木の風合いを感じられるような雰囲気に仕上がります。

もともと防水性の無い木材なので液体を入れるのには不向きですが、どうしても防水したい場合は少ない選択肢から選ぶことになるでしょう。定番はウレタン塗装や漆が代表的なところですが、どちらも塗膜ができる塗装方法になるため作業には高いスキルが必要となります。

ウッドターニングを学ぶときに必要なテーマを大きく分類すると下記の4つになります。

(1)シャープニング

(2)フェイスワーク

(3)センターワーク

(4)フィニッシング

最も重要なのがシャープニング(砥ぎ)で刃物の砥ぎは絶対必要なスキルです。一般的にジグを使うシャープニングのテクニックは難しすぎることはありません。少しの練習と慣れで十分にウッドターニングが楽しめる切れ味を手にできるはずです。あとはフェイスワーク(板からお皿をつくるイメージのボウルターニング)でも、センターワーク(角材を丸棒にして家具の脚をつくるイメージのスピンドルターニング)でも、やってみたい、つくってみたいものを好きなジャンルから選べば良いでしょう。そして最後はフィニッシング(仕上げ)です。フィニッシングのイメージは「塗装」みたいに考えられることが多いですが、カービング(彫刻)、ペインティング(着色)、バーニング(焦がし)など、木工旋盤の上で完成させるだけではなく、その後の2次加工、3次加工を加える楽しみもまた格別です。使えるモノづくり、アーティスティックなモノづくり、ウッドターニングという手法を使って自由に自分の世界をつくってみましょう。

**********

*下記抜粋

書籍「ア ブック アバウト ウッドターニング」著 川口康

ウッドターニングとは

木工旋盤(もっこうせんばん)という機械で回転させた木材を手で持った専用の刃物で削って加工する作業のことを”ウッドターニング”(Woodturning)といいます。ウッドターニングは木工ジャンルの1つで、欧米を中心に盛んに行われています。そして、ウッドターニングをする人のことをウッドターナー(Woodturner)と呼びます。 最近になって日本国内でもウッドターナーが増えている傾向です。国内外問わず多くのウッドターナーは趣味として楽しんでいることが多く、身のまわりの使えるものを作るのが一般的です。奥が深いウッドターニングですが、材料や作風など自由に考えて表現が出来るところが大きな魅力になっています。最初は趣味だったウッドターニングも、出来た作品をクラフトフェアなどのイベントで販売したり、アーティスティックな作品や伝統工芸的な作品展をギャラリーなどで開催するウッドターナーも増えてきました。

7390s

シュルシュルと木が削れる感触は少し不思議で、スピーディーに形状が変化する様子は刺激的です。右利きの人がリンゴなど果物の皮を剥く時、左手にリンゴ、右手にナイフを持ち、左手でリンゴを回転させる方法が一般的だと思います。この時、左手の役割が木工旋盤で、右手で持ったナイフがウッドターニングツール(バイト)に相当するイメージです。実際にはツールレストという部分にウッドターニングツールを乗せて使うのですが、ナイフと同じように向きや角度を調整し、リンゴの皮を綺麗に剥くに はナイフをどのように操作すれば良いか? そのように考えてみるとウッドターニングの理解が早まるかもしれません。

つづく、、、(2016年9月発売開始しました)